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【天皇杯決勝プレビュー】9年ぶりの二冠か、悲願の初タイトルか…鹿島と川崎が元日決戦で激突!

2016.12.31

鹿島と川崎が天皇杯決勝で激突する [写真]=Getty Images

 反対側のブロックから、どのチームが決勝へ駒を進めてくるのか。天皇杯全日本サッカー選手権大会を勝ち上がっていた川崎フロンターレのキャプテン、MF中村憲剛は「はっきり言って、あまり気にしていなかった」と秘めてきた思いを打ち明ける。

 自分たちが過去に2度はね返されたベスト4の壁を打ち破り、クラブ史上初の決勝進出を果たさなければ、どのような予想を巡らせても意味がない。そして、大苦戦の末に大宮アルディージャを1-0で振り切り、サッカー人生で初めて元日にサッカーができる権利を手に入れた29日の準決勝の直後に、日産スタジアムのロッカールームでもうひとつの準決勝の結果を知る。

 市立吹田サッカースタジアムで行われた一戦では、2016シーズンのJ1年間王者・鹿島アントラーズが2-0で横浜F・マリノスを下していた。「鹿島が勝ち上がってくるだろう、とは漠然と思っていた」とも打ち明けた中村の胸中で、不退転の決意がはっきりと輪郭を成した。

「チャンピオンシップ(CS)で負けている悔しさはチーム全員が忘れていないし、あの時のリベンジを果たすという意味でもこれ以上はない舞台。全員がすべてを出し尽して、勝って終わりたい」

 2016シーズンを締めくくる元日決戦は、決勝では初顔合わせとなる鹿島と川崎の激突となった。11月23日の明治安田生命Jリーグチャンピオンシップ準決勝以来、39日ぶりとなる両者の対戦。この時は年間勝ち点3位の鹿島がFW金崎夢生の値千金のゴールで、同2位で悲願の初タイトルを狙っていた川崎を撃破した。以来、両チームはある意味で“共通項”のある軌跡を描いてきた。

 鹿島はCS決勝でも同1位の浦和レッズをアウェーゴール差で上回り、痛快無比な下克上を達成。7年ぶり8度目の年間王者獲得で国内三大タイトル数を「18」に伸ばし、開催国代表として初出場したFIFAクラブワールドカップ ジャパン 2016でも破竹の快進撃で決勝へ進出。延長戦の末に敗れたものの、欧州サッカー連盟代表の強豪レアル・マドリード(スペイン)から一時はリードを奪う死闘は全世界へと届けられた。

 決勝戦後の取材エリアで、シーズン終盤を通して出色のパフォーマンスを見せたDF昌子源は「鹿島というクラブでは『良い試合をした』じゃあ意味がない」と、善戦という言葉に拒絶反応を示した。銀河系軍団を本気にさせながらも、最終的には「負けた」という事実に唇をかみしめたのだ。

「キャプテンの(小笠原)満男さんがよく言う『2位も最下位も一緒』とはこのことを言うと思うし、優勝して初めて成長した、良いディフェンスだったと言われる。すぐに天皇杯があるし、そこで不甲斐ない戦いはできない。結果だけを求めて、誰が見ても『ああ、鹿島だな』と思われる熱い試合をしたい」

 120分間に及んだ熱戦の肌感覚は、確かに自信にはなった。もっとも、それ以上に鹿島というクラブ全体に脈打つ、究極の負けず嫌いというDNAを触発した。じゃんけんに負けただけで顔を真っ赤にしながら再戦を要求した、神様ジーコが礎を築いたクラブの黎明期から受け継がれる伝統には、相手が世界最強軍団であろうと例外はない。

 横浜FMとの準決勝でも、貪欲に勝利だけを目指す気持ちに導かれる試合巧者ぶりを存分に見せつけた。その象徴が73分に決まったダメ押しゴール。MF中村俊輔の直接FKから最後はDF金井貢史がゴールネットを揺らしたプレーに、オフサイドの判定が告げられる。相手がエアポケットに陥った一瞬の隙を見逃さず、カウンターから右サイドを抜け出したMF柴崎岳が供給した絶妙のクロスをFW鈴木優磨が確実に決めた。

 同じくカウンターから決まった41分のFW土居聖真の先制弾を含めて、2つのゴールに絡んだMF永木亮太は「レアル戦後のロッカールームで『天皇杯のタイトルは絶対に取る』とみんなで誓い合った」と明かす。横浜FM戦でも序盤は主導権を握られ、きわどいシュートも浴びた。それでも37歳の守護神、曽ヶ端準を中心とする守備陣に焦りはない。体を張ってでも守るべきところを守れば、必ずチャンスは訪れる――。確信に近い共通理解が余裕すら漂う、隙のない試合運びにつながった。

 そもそも、苦杯をなめさせられたのはレアル・マドリードだけではない。CS決勝第1戦も浦和に0-1で屈し、さらにさかのぼれば年間勝ち点でも川崎に13、浦和には15もの大差をつけられている。

 3年ぶりに1ステージ制へ戻る2017シーズンへ。昌子は「年間を通して強かった浦和さんと川崎さんに追いつかないといけない」と誓いを立ててもいた。負けたことで、勝ち点で後塵を拝したことで増幅されてきた常勝軍団のメンタリティーは6大会ぶりに臨む決勝の舞台でも発動され、Jリーグ発足後では最多となる5度目の優勝への原動力になるはずだ。

 対する川崎もCS準決勝で鹿島に喫した「黒星」の二文字を、捲土重来を期す上での糧にしてきた。風間八宏監督の下で培ってきたパスをテンポよくつなぐポゼッションサッカーとは対極に位置する、いわゆる「泥臭さ」や「しぶとさ」を身にまとうことを合言葉としてきた日々。大宮戦の80分に値千金の決勝ゴールを決めたDF谷口彰悟は、「鹿島に負けた準決勝の映像を何回も見直した」と振り返る。

「やっぱり何回見ても悔しかった。決して悪い戦いではなかったけど、いわゆる『戦う』という部分で鹿島が上回っていた、というのがある。失点のシーンも一瞬フワッとしたところを突かれたというか、そういう隙を絶対に見逃さないチームなので」

 後半開始早々に鹿島が敵陣の左サイドで得たスローイン。折り返しでボールを受けたDF山本脩斗が切り返して、マークについたDFエウシーニョをかわした瞬間に、谷口によれば「ウチは全員がボールウォッチャーになってしまった」という。

「逆に鹿島の選手たちは『チャンスが来た』という感覚になっていたと思うし、その差が結果となってしまった。次も試合が終わるまで集中し続けること。鹿島は勝つサッカーをしてくるので、一対一や球際、攻守の切り替えといった基本的な部分では絶対に負けちゃいけない。その点だけは試合を通してみんなに厳しく言っていきます」

 山本が放った低く、速いクロスを、ニアサイドに飛び込んできた金崎にヘディングで決められたシーンが頭から離れないのは中村も同じだ。大宮戦では相手の鋭い出足と激しいチェック、そして闘志の前に思うようなサッカーができず、逆に相手のシュートがポストを直撃したあわやのピンチもあった。

 逆境にさらされるたびに全員が体を張ってゴールを死守して、拮抗した一戦の明暗を分けることの多いセットプレーからゴール前の混戦を誘い、最後は乾坤一擲、谷口が右足で押し込んだ。まるで鹿島をダブらせるタフな90分間に、試合後の中村は開口一番、「間違いなく執念があった」と表情を綻ばせた。

「どちらに転がってもおかしくない試合で決して焦れることなく、我慢しながら勝機を見出せた。ここで崩れたらいけない、という場面でみんなが良い声掛けをしながら、お互いをサポートし合えた。最後のところで足を出すとか、チームとしてだけではなく、最後は個々のところで決めさせない、逆にウチが決めたところが結果として表れてもいた。守るところは守る、攻めるところは攻めるというメリハリは、チーム全体もそうだけど、やはり選手個々で感じ取ってやらないと、今日みたいな試合はなかなか勝てない。その意味では成長したと思う」

 天皇杯へ向けて調整を重ねながら、鹿島が世界を驚かせたクラブW杯を、中村は「正直なところ、悔しさと羨ましさが半々の心境で見ていた」と打ち明ける。その過程で鹿島にあって、川崎にかけていた最後にして最大のピースを見つけた。

「全員で頑張る、最後の部分でやらせない姿は間違いなく僕たちにもすごく刺激になったし、ウチらもやらなければこのレベルでは勝ち抜けられないとも思った。自分たちがずっとボールを保持しながら攻め続けて、点も入って、という試合を望んではいるけど、鹿島はそうはさせてくれない。今まではそういう流れのなかで自分たちからリズムを崩していたけど、大宮戦では踏みとどまることができた。こういう試合を決勝の前に経験できたことは、絶対に勝ちたいという気持ちが、ちょっとベタですけどフォア・ザ・チームという思いになって力強く出せたことは大きい」

 ともに黒星にもたらされる悔しさを触媒として、シーズン中よりも進化を遂げてきた両チームの邂逅は、前回交わった11月23日以降の日々がどれだけ濃厚だったかが問われる一戦にもなる。9年ぶりの二冠獲得で、鹿島が常勝軍団の完全復活への雄叫びをあげるのか。悲願の初タイトルとともに、川崎が退団する風間監督とFW大久保嘉人とともに美酒に酔うのか。激戦必至の元日決戦は市立吹田サッカースタジアムで、14時にキックオフを迎える。

文=藤江直人

By 藤江直人

スポーツ報道を主戦場とするノンフィクションライター。

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