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駒野にも室屋にも「譲る気はない」…FC東京を救った19歳の左SB小川が“師匠”の定位置を狙う

2016.03.02

FC東京での初出場ながらFC東京に2ゴールを呼び込んだDF小川 [写真]=三浦彩乃

 ベトナムのビンズオン相手にまさかの先制を許したFC東京を救ったのは、流通経済大柏高からのプロ入り2年目、19歳の左サイドバック小川諒也だった。

 ホームにベトナム王者を迎え撃ったAFCチャンピオンズリーグ2016のグループステージ第2戦。試合を優位に進めながらゴールを決め切れなかったFC東京は、23分にカウンターから失点を喫してしまう苦しい展開を強いられる。後半立ち上がりの50分にネイサン・バーンズのゴールで同点としながら、66分にはサンダサがPKを止められて絶好機を逸していた。

 ここで若武者の左足がスタジアムに漂い始めた嫌なムードを一気に払拭する。

 1-1の同点で迎えた68分に右CKから鋭い左足キックで相手のオウンゴールを誘発して逆転ゴールを呼び寄せると、84分には再び右CKから左足で前田遼一の追加点を演出。苦しい展開を強いられたチームを、FC東京でのデビュー戦となった若きレフティーが勝利に導いた。

 ルーキーイヤーの昨シーズンは3月にU-22・Jリーグ選抜として明治安田生命J3リーグで1試合に出場したものの、FC東京での出場機会はゼロ。だが、チームメイトだった同じ左利きの左サイドバックだった太田宏介(現フィテッセ/オランダ)のプレーを日々近くで学び、実際に太田からもアドバイスをもらっていた。

「クロスの練習で自分と一緒に左サイドにいたので、いつも間近で見ていました。太田選手には蹴り方とか狙いどころを指導してもらったので、出番がない中でも成長できた一年間だったと思います。試合に出られず悔しい思いをしていましたけれど、しっかり積み上げてきたことが結果につながってうれしい」

 初めて青赤のユニフォームを身にまとってピッチに立った小川だが、その胸中には強く期するところがあった。

「試合に出るだけではなく、何か結果を残して次につなげたい」

 今シーズン、チームは左サイドバックにジュビロ磐田から元日本代表DF駒野友一を獲得。さらに始動後にはU-23日本代表で主力選手としてリオデジャネイロ・オリンピック出場権獲得に貢献した室屋成が明治大から加入した。“師匠”でもあった太田がオランダへ移籍し、定位置獲得へ誓いを新たに臨んだ新シーズンに、強力なライバルが登場した形だ。

 その新加入サイドバックの二人が負傷離脱したことを受けて、アジアの舞台で小川にデビューの機会が巡ってきた。だからこそ絶対に結果が欲しかった。

 1点ビハインドで迎えたハーフタイム、いつもセットプレーキッカーを務めている水沼宏太がベンチへ下がることになり、チームメイトから小川へキッカーを勧める声が上がった。そこで19歳のレフティは臆するどころか、結果に対してどん欲な姿勢を見せる。

「ハーフタイムに誰が(セットプレーを)蹴るかという話になって、みんなから自分が蹴るように言ってもらえた。自分としては結果を出したかったので、『これでチャンスが増えた。アシストしてやろう』という気持ちはありました」

 この思いが結果を引き寄せた。

 鋭い左足キックでプロ入り当時から“太田の後継者”と称されてきた小川。実績も経験も実力も、まだまだライバルたちに劣っているという自覚はある。だが、だからといって負けているわけにはいられない。得意の左足以外の部分でも冷静に現状を分析する。

「自分は実力で劣っているぶん、今日はガムシャラに120パーセント以上の力を出すように心掛けていました。球際で強く行けた部分はありましたけど、課題も見つかった。僕はDFなので、まずは守備をしっかりやらなければ出られない。そこはしっかりやっています。サイドバックで180センチの身長があるのは僕の特徴でもあるので、競り合いでも負けないところをしっかりアピールしていきたい」

 彼の起用を決断した城福浩監督は「トレーニングでは常に相当厳しいものを要求している。小平のグラウンドでやっているとおりにプレーしてくれれば、ある程度はやってくれると信頼して送り出した」という。そして指揮官はバランサーの羽生直剛と左サイドで縦関係を組ませることで、より小川の持ち味を引き出そうとした。記者会見では「小川の良さを引き出したのは羽生直剛であり、高橋秀人であり、最終ラインだった」と周囲のサポートあっての活躍だったことにも触れている。

 羽生が言う。

「監督から僕と諒也を近くに置いた意図を聞いていました。だから『中途半端なことはしなくていい。変に後ろとか横で取られることだけはいらない。取られるなら仕掛けて取られろ』と話して、思い切ってやらせようと。緊張していた割にはいいデビューになって良かった」

 オランダで“弟分”デビューのニュースを目にした太田は、試合前に「頑張れ諒也!」と応援ツイート。小川は周囲の期待に2アシストという結果で応えた。“師匠”の残した左サイドバックのポジションを手にするのは自分だという思いを形にした強烈なアピールだ。

「一年間、太田選手を近くで見て学んできたものはすごく多かった。(太田が)移籍したことによって、そのポジションで自分が出なければいけないと思っていますし、駒野選手や室屋選手もすごくいい選手ですけど、自分も譲る気はない。今は二人ともケガをしていて、自分にチャンスが巡ってきた。ここで結果を出して試合に出続けることが必要なので、しっかりアピールしていきたい。ただ、今日は水沼選手が交代しなければ自分のアシストはなかったかもしれないし、前田選手がしっかりニアに入ってきてくれたからこそアシストすることができた。自分はまだまだなので、この結果でおごる気持ちはなく、しっかり一試合一試合挑戦していきたい」

 一年間出番を得られなかった悔しさは、少しだけ晴らすことができた。青赤サポーターに得意の左足を知ってもらうこともできた。だが、本当の戦いはここからだ。プロとして大きな第一歩を踏み出した小川が、太田のスペシャルな左足のごとく唯一無二の存在になるために研鑽を積みながら、日々のレベルアップと真のレギュラーポジション獲得を目指す。

文=青山知雄


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