FOLLOW US

互いの壁を壊した“もう一つの日韓戦”…7人制サッカー国際交流親善競技を通じて深めた絆

2017.12.18

文=ちょんまげ隊長ツン

 韓・日 7人制サッカー(脳性まひ障がい者サッカー=CPサッカー)国際交流親善競技が12月17日、西大宮スポーツパーク(埼玉)で行われた。

 前日、EAFF E-1サッカー選手権(味の素スタジアム)で、ハリルジャパンが韓国に1-4で惨敗。その翌日にもう一つの日韓戦があったことを知る人は少ないだろう。結果は後に述べるとして、たった一日で様々な壁を越えた交流をお伝えしたい。

 朝10時、大宮駅前のカフェに日韓両国の選手及び関係者が集った。オープニングイベントは、ちょんまげ隊長ツンによる被災地報告会と、Jリーグ後援・映画MARCH韓国語バージョンの上映会。韓国から来た障がいを持った選手に、日本の被災地の話をする。自国でも関心が薄れている題材に、こう切り出した。

「障がいも災害も、誰に降り掛かってもおかしくないのに、人は皆『自分だけは大丈夫』と他人事のように考える。どうやったら、皆さんに関心を持ってもらえるか? そのカギが僕らにとっては映画であり、皆さんにとってはスポーツなのかもしれません。35分の短い映画ですが、【夢を諦めない】、【福島の今】をお伝えしたいです」

 驚いたことに、スポーツ交流で来日している韓国の選手団は、他国の7年近く前の災害の話に、真剣な眼差しを向け、涙する人もいた。国を越え、障がいを越え、福島に皆さんが近づいた瞬間かもしれない。

OLYMPUS DIGITAL CAMERA

 ランチを食べながら関係者やチーム紹介が行われ、交流が図られた。大宮アルディージャから派遣されているCPサッカー日本代表島田裕介監督も挨拶した。Jリーグと障がい者サッカーが共に歩むスローガン「サッカーをもっとみんなのもとへ」が韓国の皆さんに伝わったと思う。その後、選手団は決戦の地・西大宮スポーツパークへ大型バスで移動。埼玉を拠点にするCPサッカーチーム『ASユナイテッド』を中心とした日本選抜チームvs『ソウル市立脳性麻痺福祉館サッカー団・江西サッカー団』で構成される韓国選抜チームがキックオフ。前夜のハリルジャパンの敗戦を鼓舞する材料に変え、「2日連続は負けられないぞ!」と戦いに臨んだものの、前半を1-3で終えた。

 後半早々、韓国の正GKにアクシデントがあり、急遽フィールドプレイヤーがGKに入った。自分ひとりでユニフォームの着替えも、グローブもはめられない重い障がいを持つ選手であり、逆転を狙う日本は猛攻するが、韓国GKは片手片足でことごとくセーブした。日本サポーターからは「嘘だろ~」と感嘆の声が何度も聞こえた。重い障がいがあってもサッカー選手として超人だった。

 よく、障がい者サッカーの選手が口にする言葉ですが「耳が聞こえないだけ、目が見えないだけ、それ以外は皆さんと一緒なんです」そのことを教えてくれるのがスポーツのチカラであり、その場にいた子どもから大人までが体感できたと思う。

 この日をコーディネートしたのは『ASユナイテッド』の松村代表、足が不自由で人の3倍も4倍も歩行時間がかかる。それでも「CPサッカーを世に広めたい」と色々な会やセミナーに顔を出す。フットワークはネットワークを作る。そのネットワークが、人を呼び、縁を作り、この交流が実現した。

 その後に行われた元Jリーガー深川友貴さんのサッカークリニックには、アンプティーサッカーの新井選手、笹山選手が加わり、アンプティーサッカー体験会が行われた。障がいを持った選手が、違う障がい者サッカーの体験をする。また、健常者の皆さんが2種類以上の障がい者サッカーを体験する。障がいはひとつではない、人々が持つ個性のように、多種多様である。そしてそこに韓国の選手が加わることで、国境や言葉の壁も無くなる。

 参加した皆さんの感想は……。

ASユナイテッド GK吉澤菜摘さん(CPサッカー歴5年の大学三年生)
「(映画MARCHを観て)当たり前に感じている日常というものはとても脆く、簡単に崩れ去ってしまうということについて深く考えさせられました。また困った時に手を差し伸べてくれる人は目の前にいる人だけでないのだということについて学ばせて頂きました。また日本と韓国というそれぞれの言語や文化が異なる国でもサッカーは共通でボール一つあれば試合ができ、試合が終わった後には同じ時間を過ごした仲間になっているのを感じました。私たちが障害を持っているからとか韓国の人だから、子供だからといった感覚を持ってサッカーを行っている人はこの場にはいなかったように感じます。出来ない所は出来る人がフォローをしあって、時間を忘れて一緒にサッカーをする。その時間が楽しかった。小さいけれど、理想的な社会があの場所には存在していました」

キム・ドギュン監督
「今回、MARCHを見て福島と愛媛とのお互いを理解し助け合おうとする思い、バラバラとなった友人達がまた一つになっていくキッカケとなったseedsから発信する求心力に感動した。今なお放射能と戦う福島の方々の心労と努力を改めて見直す契機となった。アンプティーサッカーは初めて体験したが、CPサッカーでは自由になる身体も、アンプティでは更なる技能が必要である事を経験したので、韓国でも体験者を広めていきたいと感じた。韓国にはまだ無いのでルールからしっかり学習をして皆に知らしめたいと感じた」

 試合後のイベントには、その韓国のコーチも身体が不自由な選手も、積極的に参加し言葉が通じなくても、体験に来ていた障がいを持つ日本の子ども達に全力でサッカーを教えてくれた。そしてそれは日が落ちるまで続いた……。

「誰も知らないかもしれない、もうひとつの日韓戦」は相手を叩きのめすことではなく、お互いの壁を壊すことだった。

 このボーダーのない1日を少しでも、伝えたい。

SHARE

LATEST ARTICLE最新記事

SOCCERKING VIDEO