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シャペコエンセ、悲劇からの復活/スルガ銀行チャンピオンシップ特集

2017.07.11

不幸な飛行機事故によって、選手の大半を失ったシャペコエンセ。しかし各方面から救いの手が差し伸べられ、新たなスタートを切ることができた。8月、彼らは南米王者として来日し、浦和レッズと真剣勝負を行う。

南米王者を決める大会の舞台へ、向かう途中に起こった大惨事

 2016年11月28日、ブラジルの新興クラブ、シャペコエンセの選手やチーム関係者は、空路でコロンビアに向かっていた。ブラジルからボリビアのサンタ・クルス・デ・ラ・シエラに行き、飛行機を乗り継いでコロンビアのメデジンへ。2日後には、南米王者を決める大会、コパ・スダメリカーナ2016の決勝第1レグが行われる予定だった。決勝の相手は、コロンビアの実力派クラブであるアトレティコ・ナシオナル。新興勢力と古豪の対戦ということもあり、注目度は高かった。国内3部や4部リーグの常連だったシャペコエンセが数年の間にトップディビジョンに駆け上り、国際舞台でも頂点に立ち、南米王者として記念すべき10回目を迎えるスルガ銀行チャンピオンシップ2017に参戦する。そんなシンデレラストーリーの実現が間近に迫っていた。しかし――。

 選手団を乗せてコロンビアのメデジンに向かっていたラミア空港2933便は、同日21時55分すぎ、メデジンのホセ・マリア・コルドバ国際空港と通信をしたのを最後に、消息を絶った。そして22時15分頃、同機はメデジン郊外の標高約3300メートルの山中に墜落。燃料不足や過積載、人為ミスなど、複数の要因が重なった結果、起こってしまった大惨事だった。

 事故発生当日は強い雨が降り続いていたため空路での救助活動ができず、陸路で現場に到着した救助隊が目にしたのは、無残にも大破した飛行機の姿だった。乗客乗員77人中、71人が亡くなるという大惨事。シャペコエンセは同機に搭乗していた選手22人、コーチングスタッフ14人、クラブスタッフ9人、合計45人のうち、実に42人を失い、サッカー界は深い悲しみに包まれた。

コパ・スダメリカーナのチャンピオンチームに認定

 決勝戦は当然ながら延期となり、対戦相手のA・ナシオナルはシャペコエンセに優勝を譲る意向を示した。南米サッカー連盟(CONMEBOL)はこれを受け、シャペコエンセをコパ・スダメリカーナ2016のチャンピオンチームに認定したのだった。

 亡くなったチーム関係者の中には、Jリーグと関わりの深い人物も大勢いた。指揮官のカイオ・ジュニオールは、09年にヴィッセル神戸で指揮を執っていた。セレッソ大阪(12年)やジェフ千葉(13?14年)でプレーし、13年にはJ2得点王にも輝いたたケンペス、柏レイソル(05年)に在籍していたクレーベル、京都サンガ(10年)に在籍していたチエゴ、川崎フロンターレ(15年)でプレーしたアルトゥール・マイアと、Jリーグクラブに在籍していた監督や選手も犠牲になり、各クラブはそれぞれの形で哀悼の意を示した。

 生存者6名のうち、選手は3名だけだったが、GKジャクソン・フォルマンは右足の膝から下を切断し、競技生活を断念せざるを得なかった。ただし驚異的な回復を見せており、本人はパラリンピックへの出場に意欲を見せているようだ。また、DFアラン・ルシェウはサンタ・クルス・デ・ラ・シエラで飛行機に搭乗してからの記憶がなく、DFネトは肺やひざ、手首、頭部などを負傷し手術を受けたが、その後は順調に回復して目立った後遺症もなく、プレー復帰に向けてトレーニングを重ねている。

誇り高き戦士たちの魂を受け継ぐ“新生シャペコエンセ”

 選手の大半を失い、早急にチームを立て直す必要に迫られたシャペコエンセには、多くの救いの手が差し伸べられた。クルゼイロやパルメイラス、サンパウロといったクラブから多くの選手がレンタルで加入し、チームとしての体裁はすぐに整った。今年は南米王者として数々の大会に出場しなければならないため、登録人数41人という大所帯となっている。前述のネトとアラン・ルシェウも17シーズンのメンバーに登録されており、近い将来の復活が期待されている。また、指揮官にはグレミオやサントス、クルゼイロといった名門を率いた経験のあるヴァグネル・マンシーニが就任した。

 1月下旬にはサンタ・カタリーナ州選手権、そしてプリメイラ・リーガという2つの大会がスタートし、州選手権では昨年に続き連覇を達成。5月にはブラジル全国選手権も開幕した。その開幕戦ではコリンチャンスに1-1で引き分けたものの、その後はパルメイラスやクルゼイロ、ヴァスコ・ダ・ガマといった名門クラブからも勝利を挙げており、第3節終了時には首位に立つなど、急造チームとは思えないほどの実力を発揮している。

 現在のシャペコエンセは、主に4-3-3のフォーメーションで戦い、ブラジルのチームらしい攻撃的なサッカーを志向している。中央から、あるいはサイドから多彩な攻め手で敵陣を切り崩し、前線に陣取るニウティーニョ、アルトゥール・カイケ、ロッシが高い得点力を発揮する一方で、セットプレーからも得点を奪えるのが特長だ。

 選手の顔触れは変わってしまったが、現所属選手たちは昨年までの誇り高き戦士たちの魂を受け継ぎ、シャペコエンセの名をより輝かせるために戦っている。スルガ銀行チャンピオンシップ2017は、彼らにとって新たな栄冠を積み上げる大きなチャンス。南米諸国では大会自体の知名度も高くなっており、由緒あるタイトルとして認知されているため、彼らも南米王者の名に懸けて全力で挑んでくるはずだ。

文=池田敏明 Text by Toshiaki IKEDA
写真=ゲッティ イメージズ Photo by Getty Images

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