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菅原均氏が語る…長期契約に見る博報堂DYMPのビジネス戦略

2016.09.28

インタビュー・文=池田敏明
写真=小林浩一

 2016年1月、北海道コンサドーレ札幌は、博報堂DYメディアパートナーズ(MP)とクラブビジネス戦略パートナー契約を締結した。契約期間は異例の7年。200万人都市・札幌を本拠地とするコンサドーレが秘めた果てしない可能性、そして青年社長、野々村芳和氏が示した熱意やビジョンが実現させた大型契約だ。

 博報堂DYMPのスポーツビジネス局サッカービジネス部部長を務めていた菅原均氏は、野々村氏と直接交渉し、契約を実現させた当事者だ。

 契約締結後は自らも札幌に移り住み、野々村氏と二人三脚で様々な取り組みを行っている。二人が思い描くビジョンは共通しており、両者は来シーズン以降に向け、既に様々な企画を練っている。

 コンサドーレは今後、どのような道を歩むのか。そして、博報堂DYMPはそこにどのようにかかわり、新たなビジネスモデルを構築していくのか。菅原氏が語ってくれた。

北海道から世界へ。そのサポートをしたい

――これまで長年スポーツマーケティングに携わってこられたと思いますが、最初に携わった案件はどのようなものでしたか?

菅原 均 博報堂に入社してマーケティング局に配属になり、最初は普通に得意先の担当をしていました。その時の上司がたまたまJリーグ創設のプロジェクトに参加していて、その人に「お前、スポーツが好きだから一緒にやらないか」と誘っていただき、私も参加することになりました。1991年に入社したんですが、93年5月15日のJリーグ開幕までのキャンペーンや、各地域でどれだけ人気が上がっているのかの調査などを担当し、それ以来、スポーツにかかわる仕事をするようになりました。転勤で静岡に行った時には静岡国体や清水エスパルス、ジュビロ磐田関連の仕事もしましたし、休職して筑波大の大学院に2年間通い、復職して博報堂DYスポーツマーケティングという子会社に行ってからは、スポーツにどっぷり浸かりました。

――その中で、最も印象に残っているエピソードを教えてください。

菅原 均 やはり93年5月15日のJリーグ開幕は、心の中にかなり大きく残っていますね。古くからあるプロ野球に対し、サッカーは自由競争で選手を獲得できるし、企業スポーツ色も徐々に排除していく“新しい風”でした。Jリーグが主導権を握り、日本を変えていくというイメージを持って関与していたつもりでしたし、日本をよりグローバルで自由な社会に変えていくぐらいのインパクトを持っているんじゃないかと思っていました。

――3年前にサッカービジネス部の部長に就任されましたが、北海道コンサドーレ札幌との接点を最初に持ったのはいつ頃だったのでしょうか。

菅原 均 サッカービジネス部部長になった後、大東和美氏がJリーグチェアマンだった頃にヤマザキナビスコカップの放映権を海外で販売するという案件があり、チェアマンに同行してベトナムに行ったんです。その時に、コンサドーレの野々村芳和社長がベトナム代表のレ・コン・ビンと契約を結ぶためにベトナムを訪問されていて、たまたま現地でお会いしてお話しする機会がありました。それが最初ですね。

――今回、コンサドーレと7年という長期間のパートナー契約を結びました。どういった経緯があったのでしょうか?

菅原 均 20年間のJリーグとのかかわりの中で、選手はクラブに所属しているし、サポーターはクラブに帰属している。つまり、実態を作っているのはクラブなんじゃないかと考えるようになったんです。それぞれのクラブは、地域、そしてそこに住む人々の生活に欠かせない存在になるための活動を20年以上やっています。だから我々としても、地域に密着したクラブをサポートし、アジアや世界に通じる存在となるための手助けをしたいと考えていましたし、その中でも北海道から世界に目を向け、実態を作っていたコンサドーレには元々、注目していました。そんな折に、ベトナムでお会いした縁もあって野々村さんから「一緒にやれる方法を考えてみませんか」と連絡をいただき、すぐに北海道に飛んで、どのようなパートナーシップが考えられるのかを協議し始めました。それが昨年の1月ぐらいですね。

――メディアだけでなくクラブ事業全般のパートナーということですが、この7年間で目指すビジョンはどのようなものですか?

菅原 均 すごく壮大な話をしてしまうと、コンサドーレが単なるフットボールクラブとして存在するのではなく、ウインタースポーツやマイナースポーツも含めたいろいろな競技者や関係者と仲間になり、地元の方たちの生活に欠かせないコンテンツになってほしいと思っています。多くの方々がコンサドーレにかかわり、公共財というか、地域に欠かせない存在になることを目指していて、我々はその作業全般の、中長期のビジョンメイクや戦略作りを担うことになります。

――この契約によって、御社にはどのようなメリットがあると考えていますか?

菅原 均 事業収入のベースは入場料収入になると思うのですが、チケットの売り方やお客様をどうやって呼ぶかといった部分には、今まであまり関与させていただいたことがなかったんです。そこに深くかかわれるので、より一層いい方法を考えていきたいです。あとはデジタルコンテンツなど、スタジアム外でのエンターテインメントのモデル作りを考えたいと思っています。競技の側面をうまく使いながら、その周辺にあるいろいろなものを活用させて、仲間を増やしていきたいですね。関与するビジネスパートナーが増え、コンサドーレを通じて地元の方々が様々な課題解決にチャレンジする。その結果、コンサドーレが大きくなり、我々も新たなビジネスモデルを作ることができる。そのような側面を期待しています。

――現在、具体的に取り組んでいることはありますか?

菅原 均 まだそれほど多くのことに取り組めているわけではないですけど、来シーズンのことについては進めています。チケットの席種や価格、ファンクラブのあり方、ウェブサイトとSNSのプラットフォーム化など。それからローカルメディアにどうやって放送してもらうかも調整しなければならないですし、映像制作など、様々な側面でシフトチェンジしなければならないことがきっと出てくるので、現状の把握と、どうやって変えていけるのかについて、クラブスタッフと打ち合わせをしつつ、専門スタッフを編成して企画を練っている最中です。

――今回のセミナーには、スポーツマーケティングの世界に興味を持つ方が大勢、参加されると思いますが、そんな方々へのアドバイスをお願いします。

菅原 均 スポーツクラブは「ステークホルダー」(利害関係者)がものすごく多い世界だと思います。放送局、行政、スポンサー、スタジアムと、いろいろなBtoB(企業間取引)のかかわりがあり、もちろんBtoC(企業対消費者間取引)のかかわりもあります。そういった方々の役回りやビジネスの側面を理解して、お互いが一緒にやれる状態をどう生み出すのか。いろいろな立場や課題をどのようにケアしていくかを考えながら動けるか。一個の側面ではなく、あらゆるパラメータが働くので、それに対してどう頭を事前に動かして働けるかが一番、大切なことだと思います。難しいですけど、いろいろな方々と一緒に仕事をしないと進んでいかないものなので、すべての方々の立場を理解し、それを接着させるコーディネート力、プロデュース力が必要だと思います。

――今後、より力を入れて取り組んでいきたいことを教えてください。

菅原 均 札幌ドームを今後も本拠地として使用していくと思うんですが、まずは4万人入るこのスタジアムを常時、満員にしたいです。約200万人いる札幌市の人口を考えれば、不可能ではないと思います。ホームゲームは年間約20試合しかないので、希少価値も高いですし。その中で試合だけではなく、周辺のエンターテイメントも含めて楽しんで帰って頂きたい。札幌ドーム周辺に“お祭り”を作りたいですね。子どもたちがお祭りに行くとなると、おじいちゃん、おばあちゃんは一緒に行かなくてもお小遣いをあげるでしょうし、普段は門限が午後6時でも、8時、9時まで遊んでいて許されますよね。それがお祭りのすごいところで、当人だけでなく、周りでかかわっている人間も、その状況を理解してくれるんです。参加者に加えて、それを認める人間がどれだけいるかが、お祭りがどれだけ盛り上がるかに繋がってきます。そのような環境を整える作業を、早急に進めていきたいと考えています。

 菅原氏の言葉の端々からは、野々村氏に対する絶大な信頼を感じ取ることができた。北海道や札幌市、そしてコンサドーレというクラブには、大きな可能性が秘められている。博報堂DYMPがそこにどうかかわっていくのか。コンサドーレと博報堂DYMPがこれから起こすであろうムーブメントから、目が離せない。

野々村芳和氏が語る…北海道コンサドーレ札幌に秘められた可能

株式会社コンサドーレ CMO 兼 バイスプレジデント
菅原 均(すがはら ひとし)

1966年12月24日生
■経歴
1991年 株式会社博報堂 入社
2005年 株式会社博報堂スポーツマーケティング マーケティンググループ グループマネージャー
2011年 同社 取締役 執行役員(2008年4月より株式会社博報堂DY スポーツマーケティングに社名変更)
2012年 株式会社博報堂 DY メディアパートナーズ スポーツ・エンタテインメントビジネス局 ビジネス戦略部部長
2013年 同社 スポーツ・エンタテインメントビジネス局・サッカービジネス部部長
2015年 同社 スポーツビジネス局 サッカービジネス部部長兼スポーツビジネス 2部部長
2016年 株式会社コンサドーレ 取締役 CMO 兼バイスプレジデント

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