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風間八宏氏が語る/前編…“絶対的”な「止める」「蹴る」を指導するトラウムトレーニングとは

2016.08.29

インタビュー=青山知雄
写真=小林浩一

ドイツやサンフレッチェ広島で現役生活を送り、日本代表としても活躍した風間八宏氏。指導者への転身後は独自の理論に基づいたチーム強化で評価を得ており、現在指揮を執っている川崎フロンターレは、戦術の浸透とともにチーム力が上がり、就任5年目となった2016シーズンは年間順位で首位に立つなど、いよいよその評価を確立しつつある。

そんな風間氏が2010年に立ち上げ、代表を務めるサッカースクールがトラウムトレーニングだ。風間氏はどのような理念でこのスクールを設立したのか。

このコンセプトに辿り着いたきっかけや現在のサッカー理論、そしてトラウムトレーニングを通じて何を学んでほしいのか、風間氏が語ってくれた。

“絶対的なもの”を知り、夢をつかむための方法

――まずはトラウムトレーニングについて、ネーミングも含めて、どんなコンセプトの、どんなトレーニングなのかを教えてください。
風間八宏 「トラウム」というのはドイツ語で「夢」を意味する言葉です。夢は自分で創るものだと思うし、どれぐらい大きな夢を持つかで未来が変わってきます。サッカーの場合、大きな夢をかなえるためには教える側が最も大事なことをしっかり伝えていかなければならないんですが、子どもの頃に正確な考え方や技術を習得しなかったら、夢をかなえられるようなサッカーはできないんですね。しかも、それはいろいろな正解があるものではなく“絶対的”なもの。それをしっかり伝えていってあげれば、子どもたちは必ずうまくなるし、そこから自分たち独自のものができ上がっていきます。それを日本に広めたいと思い、トラウムトレーニングを立ち上げました。

――“絶対的なもの”というのは、個人の技術や戦術の部分になるのでしょうか。
風間八宏 たとえば簡単な話、野球をやっている子がボールをキャッチできなかったら話にならないですよね? それと同じなんですが、足の場合は手ほどボールを正確に扱えないので、止める、蹴るといった技術がアバウトになってしまいます。でも、どこを触ったらどうなるのか、というのは絶対的なものですよね。ボールの上のほうを触れば下に進むというのは決まっていることだし、真ん中を触ればまっすぐ、下を触れば上に進む。“絶対”というのはそういうことで、それを知っておかなければなりません。

――では、トラウムトレーニングの目的や目標はどこにあるのでしょうか。
風間八宏 プレーの基準は人それぞれ違います。ボールを止めるという動きにしても、止めたボールが足から30センチ離れている人と、1メートル離れている人では同じ「止める」にはなりません。そういった部分を本当にこだわって、どうすれば正確に速くプレーできるかをしっかり伝えていくことが目的です。一つひとつの事象にどれだけこだわるかで基礎知識の幅が違ってくるし、基本戦術も変わってきます。ちゃんとした「技術」と「こだわり」を子どもの頃に身につけてしまえば、あとは自由な発想でプレーできます。いくらいいイメージを描けていても、技術がなければそれを具現化することはできませんからね。それはプレーヤーが自分で創っていくものですが、そのためにどうこだわればいいのかは、見せてあげないと分からない。正しく蹴れているのか、それとも蹴れていないのか。それは不変なものだから、気づかせてあげなければなりません。

――ご自身のどのような経験を基にして、このトレーニング方法を考案されたのでしょうか。
風間八宏 現役時代、日本代表のトレーニングにネルソン吉村さんが来て、私にいろいろ教えてくれたことがありました。私は中盤の真ん中の選手だったので、監督からはサイドチェンジを活用するプレーを求められ、ネルソンさんは私にキックを教えるように要請されたんです。ただ私自身、彼のキックに驚きはありませんでした。それよりも彼は、常に同じ場所に正確にボールを止めてしまう、そして蹴るまでの時間が非常に短い。正確にピタッ、スパーンって、すごくスピーディーでした。そこで自分のボールの置く位置と比較してみると、私自身は両足の間にボールを置いていました。これだとキックする場合、もう一度ボールを前に出さなければならないですよね。「そういうことか」と気づいて、ドリブルもできてキックもできるボールの置き場所を自分で探していったんです。そういったことの一つひとつを自分で整理していき、自分が指導する立場になった時に、例えば相手のマークを外すとはどういうことか、といった方法論を確立させていきました。

――指導を受ける側が気をつけなければならない点はありますか?
風間八宏 まずは考え方。どういうことか、というのをちゃんと理解しなければなりません。そしてボールを扱う技術は徹底してこだわってほしいですね。「自分で何でもできる位置にボールを置いてみなさい」と言った場合、何でもできる位置ってたぶん1カ所しかないんですよ。そしてその位置に正確にボールを置くためには、とにかく自分でやって見つけていくしかないんです。それから「体を扱う技術」も必要です。マークを外す動きにしても、動き方さえ覚えてしまえば簡単にマークを外してボールを受けることができます。「頭・技・体」。これをしっかり把握して、身につけていくことが大切ですね。

――教える側にとっても「頭・技・体」をリンクさせる難しさと面白さの両方があると思います。
風間八宏 言葉を徹底的に砕かなければならないですね。あとは見せること。言葉で理解させつつ、実際に自分でもやってみせる。この2つがなければ無理だと思います。そうやって理論をどんどん砕いていって、選手たちに認識させる。いくら言っても聞かない選手もいるし、分からない選手もいるんですが、そういった選手に限って、言うのをやめた途端に理解してできるようになることがあるんです。僕らは成功するための方法を教える。選手たちは、自分で成功を望んで考え始める。その時に初めてそれが「自分のもの」になります。

――自分で答えを見つけに行くよう促す、ということでしょうか。
風間八宏 そう、ただ、指導者は総じて「子どもたちに考えさせる」なんて言うんですが、最初は考えられないですよね? だから最初は言葉で伝えて、見せてあげなければならない。そうやりながら、自分で考えるように仕掛けていく。「うまい選手であれば、ピッチの中では自由にやれるんだよ」っていうのをしっかり伝えれば、自分に対する要求が高くなるだろうし、やりたいこともはっきり見えてくる。そしてもちろんうまくなる。その足掛かりを作ってあげる必要があります。

――判断の部分では何が大切でしょうか。
風間八宏 いつ、何が、どのように見えているか、それを認識させてあげることです。それがグラウンドでの大きな情報となり、選手達はそこから判断をします。ただしそれは、全ての技術がどのレベルにあるかで変わってきます。判断力という言葉だけで片付けられるものではありません。全てを上げることが、判断力を上げていくのです。

――一つだけではだめだということですね?
風間八宏 そう。もちろん技術や体の動きについても、何ができるかを認識し、どうすればいいのかを考えていかなければなりません。頭と体と技術のレベルを、常に正三角形にさせる必要があります。たぶん先に頭が伸びていって、一瞬、二等辺三角形になるんだけど、そこに体と技術がついていって、また正三角形になる。そうやって正三角形をどんどん大きくさせていく作業だと思います。その時に見えるものももちろん多くなっていきます。

風間八宏氏が語る/後編…川崎フロンターレでも「常識を壊す」ことから始めた

トラウムトレーニング 代表
川崎フロンターレ 監督
風間 八宏(かざま やひろ)
FIFAワールドユース選手権日本代表に高校生ながら選出。筑波大学在学中には日本代表に選ばれ、卒業後、ドイツのレバークーゼン、レムシャイトなどで5年間にわたってプレーを続けた。
帰国後マツダSCに入部し、1992年からはJリーグ発足に伴ってサンフレッチェ広島でプレー。日本人選手Jリーグ初ゴールを記録。現役引退後、解説者として活躍する傍ら、桐蔭横浜大学サッカー部監督、筑波大学蹴球部監督を歴任。2012年4月から川崎フロンターレ監督に就任した。

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