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33万人に想いを届ける…いわきFCの大倉社長が挑戦する“スポーツ界の改革”

2016.08.10

インタビュー=安田勇斗
写真=小林浩一

大倉智社長率いるいわきFCの挑戦は、“スポーツ界の改革”と置き換えられる。親会社は、アメリカの『アンダーアーマー』社の日本総代理店でありDNSなどのサプリメント販売を手がける株式会社ドーム。欧米にならい“スポーツの産業化”を目指している同社は「ドームいわきベース」という物流センターの開業を皮切りに、いわき市を発展させるための「いわきグローリープロジェクト」を立ちあげた。長期スパンで展開するこの事業においてカギになるのがいわきFCの成否だ。スポーツが繁栄する場所に人が集まり、お金が集まり、街が潤う。湘南ベルマーレ時代に「地域ロイヤリティをマネタイズする」ことの難しさを感じた大倉氏は、福島県いわき市で大望を果たすべく新たなチャレンジをスタートさせた。欧米の“地域スポーツビジネス”は日本でも実現することが可能なのか。湘南を“再建”させた“革命家”の真価が問われる。

――湘南ベルマーレの社長を退任され、昨年12月にいわきFCの社長に就任しました。現在はどのような業務を行っているのでしょうか?

大倉智 今はいわき市のいろいろなところに行って、様々な話をしています。いわき市33万人すべての方々に理解していただくために、いわきFCが目指すところ、ドーム社がなぜここに来たのかなどを説明しているんです。過去にはあまりポジティブじゃない反応もあったんですけど、ドームが来て街がガラッと変わって、今は「来てくれて良かった」という声もだいぶ増えてきました

――その想いは多くのいわき市民に届いている実感はありますか?

大倉智 少しずつ受け入れていただいていますし、市との話し合いではスタジアム建設も話題に上がっています。スポンサーも決まってきましたし、徐々に成果は出ているかなと思います。

――湘南時代よりも行動範囲は広がっていますか?

大倉智 そうかもしれないですね。湘南は元々あったクラブで、地域の方々とは社長になって初めて触れ合った感じでしたけど、今はゼロから始めてあらゆるところを回っているので。

――いわき市周辺の地域も回っているのですか?

大倉智 いえ、今はいわき市だけです。このエリアの地域ロイヤリティを生みだしたいと思っているので。湘南は10エリアあって合わせて110万人の方々がいたのですが、回りきれないので難しかったんです。でもいわきに絞れば回れますし、ここで市民の方々に認めてもらうことが肝になると思っています。

――いわきFCとドームは「スポーツの産業化」という構想を掲げていますが、大倉社長が考えるゴールはどこですか?

大倉智 産業化は多様性があり、いろいろな形でお金が生まれます。欧米そしてドームの考えを参考にすると、キーワードとして「リーグ改革」、「学校改革」、「スタジアムビジネス」などがありますが、サッカーに携わる僕としてはまず「スタジアムビジネス」を成功させたいなと。どれぐらいお客さんが来るかを考え、理想として365日稼働できる構造を考え、スタジアムによって街が活性化する、街が潤うというのが一つのゴールになると考えています。

――街を成長させるには、人口減少に歯止めをかける必要があります。

大倉智 2060年には地方都市の人口は今の半分になると言われています。でも、スポーツを繁栄させ、さらにいわきであれば農林業・水産業などを発展させれば、他県から来てくれる方も増えるだろうし、人口は減らないだろうと思っています。いわきには、主に電気自動車の電池性能を検査している東洋システム株式会社(代表取締役:庄司秀樹)など面白い企業がたくさんあるんですよ。すごくポテンシャルのある街ですし、まだ一つにまとまっている感じはありませんけど、少しずつ全体がつながってきている感じはあります

――欧米のスポーツ産業に、日本サッカー界が追いつくために何が必要だと思いますか?

大倉智 「人」ですね。日本のスポーツ界・サッカー界は人材不足だと思います。よく言われていることですが、その産業が大きければ優秀な人材が集まるんですよ。報酬が良ければ、当然人は流れてきますよね。野球界はお金と人が集まっていますけど、サッカー界にはまだそれがないんです。スカウトや強化部長といったポストはだいたい選手上がり、引退した選手がそのままやっています。新入社員同然の彼らがいきなり成功を収める可能性は低いですし、だからといってクラブは経験を積ませるために海外に留学させたり、教育したりするための投資もできない。人材育成の人・モノ・お金がないんですよ。選手についてもそう。だいたいのサッカークラブはお金があったらトップチームの選手に投じる。その資金でアカデミーに優秀な指導者を招き入れれば、若手も育てられるのに。指導者も、せっかく保有しているアカデミーの選手も育たないんです。

――ドーム社はドームいわきベース(物流センター)やいわきFCなどを軸に、いわき市発展を目指した「いわきグローリープロジェクト」を掲げています。

大倉智 ドームが進めている数あるプロジェクトの一つです。サッカーに特化したものではなく、ドームいわきベースやスタジアム建設なども含まれており、いわきFC設立の前から力を入れています。その中で僕の役割はいわきFCを運営することですが、所属選手は物流センターで働いていますし、僕自身はマラソンやゴルフなど様々なイベント実施に向けての話にも参加しています。また、スタジアムはサッカーを中心に考えているものなので、いわき市の方々との話し合いにも加わっています。

――いわき市をプロジェクトの拠点にした理由は?

大倉智 東日本大震災が起こった時に、ドームがいろいろなものを積みこんで行った先がいわきの小名浜だったんです。その一方でドームと元法務大臣の岩城光英さんのつながりもあり、いわき出身の岩城さんが良い土地をご紹介してくださって、ここになったようです。ドームいわきベースを作ったのも復興支援に寄与したいという想いからで、雇用を創出することで、永続的な支援になると思ったからです。

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――いわきFCは親会社のドーム社と密接な関係にあります。ドーム社と組むことでどんなメリットがありますか?

大倉智 ビジョンですね。ドームはスポーツを通じて社会を豊かにするという企業理念がある。スポーツに対しての理解があって、人材教育や選手育成などに対して投資しようという意思があります。また、安田秀一(株式会社ドーム代表取締役)と話しているのは、日本の“フィジカルスタンダード”を変えること。そこから逃げてはいけないと。僕もずっと思っていたことなんですが、Jリーグクラブではフィジカル強化だけにそこまでお金はかけられないんです。でもドーム社には正しい知識があり、優秀な栄養士やトレーナーがいて、必要なサプリメントもあります。スポンサーとしての考え方、投資の仕方、取り組む事業などすべてにおいてゴールを共有しています。普通ではあり得ない関係ですね。

――クラブ設立から半年、ドーム社の反応はいかがですか?

大倉智 安田が言っていたのは「思っていた以上にいわきFCの効果がドームにもある」と。それは何かが売れるとか、そういうことではなく、ドームの会社理念や、スポーツ産業を活性化させたいというドームの想いが、いわきFCによって広がっているという意味です。僕自身もこの波紋の大きさに驚いています。

――クラブスタッフとして10年以上働き、2つのクラブで社長になりました。これまでの経験を踏まえ、サッカークラブを運営していく上で大事なことは何だと思いますか?

大倉智 一般企業と大きく変わらないと思いますが、強いて言えば語学力ですね。スポーツのスタンダードが欧米にあるなら、それを学ぶ上で言葉は大事になる。それと、グローバルな視点で考えるマインドも必要になるでしょう。僕らのマーケティングのコンセプトに「Think global, act local」という言葉があります。世界に目を向けながら、ローカルを意識して動こう、ということなんですが、そのバランス感覚も大切ですね。海外でしっかり勉強して帰国したけど、海外の考え方になってしまって日本には落としこめない、というのはよくあります。経営者だけでなく指導者でもそうですけど、それではせっかくの勉強が無駄になる。そういう意味で、世界と日本をつなぐ言葉、感覚、センスといったものは大事になると思います。

J1クラブの社長の座を捨て再出発…いわきFCの大倉社長「ベルマーレではやりきった気持ちがあった」

株式会社いわきスポーツクラブ
代表取締役
大倉 智(おおくら さとし)

1992年 早稲田大学商学部 卒業
日立製作所入社後、社員選手から 柏レイソル・プロ選手に転向
1996年 ジュビロ磐田へ移籍
1997年 ブランメル仙台(現ベガルタ仙台)へ期限付き移籍
1998年 ジャクソンビル・サイクロンズ(USA)へ移籍。現役を引退
2000年 ヨハン・クライフ国際大学(バルセロナ)へ入学、スポーツマーケティングを学ぶ。
2002年 セレッソ大阪 チーム統括ディレクターに就任
2004年 株式会社湘南ベルマーレ 強化部長に就任、J2下位に低迷していたチームをJ1昇格に導く
2013年 株式会社湘南ベルマーレ GMに就任
2014年 株式会社湘南ベルマーレ 取締役社長に就任
2015年 株式会社湘南ベルマーレ 代表取締役社長に就任
2016年 株式会社いわきスポーツクラブ 代表取締役に就任

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By サッカーキング編集部

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