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日本のサッカー選手代理人が明かす③「香川真司選手をドルトムントに移籍させるより、解雇された選手のプレー先を見つけることは、難しく喜ばしい」

2016.05.20

インタビュー・文・写真=波多野友子

1999年にはFIFA公認エージェントの資格を取得し、数少ない日本人代理人として活躍してきたジェブエンターテイメントの田邊伸明氏は、日本サッカー界にとって貴重な存在だ。昨年導入されたばかりの「仲介人制度」についての見解や今後の見通しについて、自身の仕事のやりがいやメソッドも踏まえてオープンに語ってもらった。

――2015年3月、FIFAによるエージェント制度が廃止され、新たに仲介人制度が導入されました。

田邊伸明 FIFAが定めた制度の中で、大陸間の文化や習慣の違いが埋められなかったということだと思います。1995年のボスマン判決により、契約期間が切れると移籍金が発生しないというルールができました。これを補うためにトレーニング・コンペンセーション(※)という対価制度が設けられました。トレーニング・コンペンセーションとは、23歳以下の選手が移籍する際に、その選手が12~21歳までプレーしたクラブに対して移籍クラブが支払う育成補償金のことです。FIFAが義務づけており、詳細については各国別にローカルルールが定められています。それ以前はプレーヤーの履歴がわからないという状況が頻発して、FIFAに問題が山積しました。そこで、今後は各国クラブで解決してくださいという運びになったんです。

※トレーニング・コンペンセーション:23歳以下の選手が移籍する際に、その選手が12歳~21歳までプレーしたクラブに対して移籍先クラブが支払う育成補償金のこと。FIFAが義務付けており、詳細には各国別にローカルルールを定めている。

――仲介人制度が導入されることで、田邊さんが考える問題点を教えてください。

田邊伸明 エージェント制度の時はぺーパーテストでの資格取得が絶対条件だったので、相当量の知識を得るための学習が必要でした。そして当然ですが、トラブルの所在はエージェント側にありました。そのため保険が義務付けられていたし、保険制度ができる前は供託金も払ってきました。それが、登録料を払えば誰でもエージェント業ができるようになり、トラブルが起きた場合はクラブと選手側に責任が問われるようになったんです。その点では、選手側はより慎重にエージェントを選定する必要が出てきましたね。

――反対に、良いと思うところは?

田邊伸明 何事においても、異業種の方が入ってくるのは良いことだと思います。たとえば野球仲介人の第一人者、団野村さんが今回仲介人に登録されました。私たちにとってすごく刺激的だし、ぜひ話を聞いてみたいと思っています。実際、新制度が導入され、30人だったエージェントが100人を越えました。情報ソースは増えたけれど、見極める目が必要になってくる。物事がオープンになるって、そういうことではないでしょうか。

――登録すれば仲介人になれるということで、今後この仕事を目指す人が増えるのではと思います。田邊さんの考える、優れた仲介人像とはなんでしょう?

田邊伸明 サービス業なので、選手に喜ばれることを提供できるのがいい仲介人ですね。後で喜ばれることになると確信が持てれば、厳しいことを言うことも絶対に必要です。もちろん、クラブから信頼されることも大切です。私は「窮地を救うのは誠実さ」だと思っています。ピンチに陥った時は、誠実に物事に向き合うしかない。語学力、法律の知識、話の上手さといったことは、あまり関係ないと思います。

――選手との向き合いかたについては、いかがでしょうか。

田邊伸明 アスリートは基本的に孤独だと思います。プロに上がると、自分以外はみんなライバルになってしまう。高校サッカー、ユース、トップチームと、所属カテゴリが変わるたびに、チームやコーチ、監督との距離も開いていく。それをどうやって解消できるか、いい方向に進むための環境をどうやって提供できるかが肝ですね。私にとっては、試合における物事の考え方を選手と共有するのが一番適したやり方です。

――田邊さんは、仲介人としての在り方をかなりオープンにされていますよね。

田邊伸明 過去に山瀬功治選手や中田浩二選手の移籍を担当した時に、ネットでめちゃくちゃ叩かれたことがあるんです。なぜこんなことが起きるのか、と考えた時に、やっぱり自分たちが何をやっているのか理解されていないからだと気付きました。そこで、当社では5年間で10回のセミナーを開催しました。この仕事について理解を深めると同時に、ノウハウを開示するためです。参加して自分もやってみようという人が出てくれば、良い競走が生まれるし、経済的に業界を大きくすることもできると思ったんです。

――とてもオープンですね。ちなみに、仲介人の報酬についてはどのような仕組みなのですか?

田邊伸明 選手のサラリーからパーセンテージで給料をもらっています。だから当然、選手の年俸が上がらなければ儲けが出ない。だけど、契約交渉時にいくらエージェントが言葉たくみに話をしたところで、選手の年俸って上がらないんです。ですから我々は契約交渉までの間に、いかに選手を活躍させるかを徹底的に考えます。それを繰り返すことが、結果年俸アップへの近道だと考えています。

――選手を活躍させるために、田邊さんが徹底していることを教えてください。

田邊伸明 現在ジェブエンターテイメントには5人のスタッフが在籍していて、66名の登録選手をそれぞれ担当しています。そうはいっても、基本はチームプレー。スタッフ同士がコミュニケーションを取り合って、同じ物差しで選手を見極められように徹底しています。サッカーって、数字に表れない部分が重要だと思うんです。たとえばオフ・ザ・ボールの動きとか。そこを「いかに誰が見ても同じように判断できるか」というメソッドをいつも考えています。

――具体的には、どのようなメソッドなのでしょうか。

田邊伸明 まずスタッフ全員に、C級コーチライセンスの資格を取らせています。この会社の一番の強みは「選手と技術面での話ができる」ことなので、そのための知識が必要なんです。選手の良いプレーを集めるというのも、重要な仕事のひとつですね。数節ごとに良かったプレーを動画にまとめ、LINEで選手に送っています。それから、選手ごとに「キャリアプランシート」を作って、目標達成の度合いを共有したりもしています。

――数々のメソッドで、選手と距離を縮めていらっしゃるのですね。最後に、田邊さんが仕事をするうえでやりがいを感じる瞬間を教えてください。

田邊伸明 選手の移籍が決まるとよく「おめでとうございます」と言われるんですけど、私たちにとってそれはスタート地点に立つことなので、実はそれほど達成感はないんです。たとえば、日本では大学入試に通ることに達成感を感じるけれど、それはちょっと違うというか。どこにゴールを設定するのかという問題ですよね。私がやりがいを感じるのは、解雇になった選手のプレー先を見つけた時です。きっと香川真司選手をドルトムントに移籍させることより難しいですよ、需要のないところを掘り起こすわけですから。選手がもう一年、プロとして活躍できる機会が与えられる。その瞬間に立ち会えることが本当にうれしいですね。

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株式会社ジェブエンターテイメント
代表取締役 田邊伸明

大学卒業後、スポーツイベント会社に就職。1991年からサッカー選手のマネジメント業務を開始。
また、ワールドスポーツプラザ「カンピオーネ」、「ワールドスポーツカフェ」などのプロデュース、サッカービデオ/DVDの日本語版監修などサッカービジネス全般のコンサルティング業務なども手掛ける。
1999年日本サッカー協会のFIFA(国際サッカー連盟)選手代理人試験を受験し、2000年FIFAより選手代理人ライセンスの発行を受ける。
主な契約選手は稲本潤一(コンサドーレ札幌)、大久保嘉人(川崎フロンターレ)、平山相太(FC東京)、槙野智章(浦和レッズ)、浅野拓磨(サンフレッチェ広島)など。

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