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経営危機に陥ったアビスパ福岡、復活の理由/後編「“アビスパ”というキーワードで、子どもたちの成長に好影響を与えることができたら」

2016.05.18

「Jリーグ退会」という最悪の事態も考えられた経営危機を乗り越え、現在5年ぶりにJ1のステージで奮闘するアビスパ福岡。その危機的状況からクラブを立て直した背景には、サッカー界とは異なる業界から来た経営者がいた。

 2013年10月、アビスパ福岡は約5,000万円の運営資金不足が表面化し、サポーターなどから募金を集める事態となっていた。同年度は約2,800万円の債務超過に陥り、経営改善が見られなければ、最悪の場合Jリーグを退会せざるを得ないという現実を突き付けられる。しかしその翌年8月、経営再建を目指すアビスパ福岡は、福岡市を拠点とする企業から約1億円の出資を受け、クラブは経営危機を回避。、その企業とはアパマンショップホールディングス(大村浩次社長)のグループ企業であるシステムソフト社(吉尾春樹社長)であった。その後2015年3月の取締役会で、アパマンショップホールディングス(HD)常務の川森敬史氏が、アビスパ福岡社長に就任することが正式決定し、同年、クラブはJ1への昇格を決める。債務超過に陥ったクラブを、どのように立て直し、チーム強化につなげたのか。その変遷を知る川森社長に話を伺った。

インタビュー・文=新甫 條利子
写真=瀬口陽介

――川森社長ご自身はこれまでサッカーに触れる機会はありましたか?

川森敬史 サッカーは、学校の授業で経験したくらいですね。一昨年の夏、役員になるということで初めてレベルファイブスタジアムに行きましたが、その時期は勝てない時期で、何回行ってもアビスパが負けてしまって……。当時はまさか自分がクラブの社長になるとは思っていなかったので、役員としてどういうことができるかな、という目線で見ていました。自分自身は、子供のころに剣道をしていまして、その後は野球を経験しました。観戦するのも野球が多かったですね。もちろん、井原(正巳)さんの現役時代の代表戦やJリーグの開幕戦などは、日本国民としてテレビ観戦していましたが、サッカーは試合の演出も派手ですし、選手も茶髪の選手が多くて、なんだかチャラチャラしているなという印象を持っていました(笑)。

――実際にサッカークラブの社長という立場になって、イメージは変わりましたか?

川森敬史 それは変わりましたね。野球選手より真面目というか、良い意味で純粋な選手が多いですよね。特にウチの選手たちは。お酒も飲まない、もちろんタバコも吸わないという選手が多いです。キャンプでも、宮崎の街に繰り出す選手なんていないですよね。宮崎で飲み屋さんに行くと、野球選手は良く来ますよ、なんて聞きますが。見た目のイメージとは全然違うんだなと思いました。あとは家族も大事にしますよね。昨季プレーオフのヤンマースタジアム長居でも、お子さんたちと写真を撮っている選手が多かったですし、そういうのは、日本の文化にあまりないことで、いい光景だなと感じています。また、昨季はチームとフロントが一緒になってバーベキューをしたんですが、選手のご家族も参加して、大変いい機会になりました。選手の奥様や子供たちは正直なので、「(アビスパを)J1に連れていくために福岡に行こうよ」と移籍の相談をした選手もいたようです(笑)。

――今年のクラブのスローガンは『子どもたちに夢と感動を!』ということですが、そこに込めた思いをお聞かせいただけますか。

川森敬史 まずはJリーグの基本理念があり、アビスパ福岡としての基本理念があります。そのなかで今年のスローガンを何にしようかとなったときに、案はたくさん出ましたが、「浮足立ってはいけない」というアドバイスもいただきました。昨季は夏から負けずに、J1昇格という目標を達成した劇的なシーズンでした。しかし、嬉しいということを表現するのはいいのですが、地に足がついていなくてはなりません。私たちのクラブには市や県の資本が入っていますが、それは皆さんの税金です。市民クラブとして、地域の皆さんと一緒にクラブを作りたいという思いで、このスローガンに落ち着きました。ただ『子どもたちに夢と感動を』ということは、実はものすごく大変なことですよね。しかしそれを基本理念に掲げている以上、やはり一生懸命さとか、ひたむきさとか、そういった部分を見せていきたいと思っています。自分自身を考えても、一生懸命に頑張る人は応援したくなるし、そういう人を見て感動しますから。

――現在具体的に検討している企画はありますか?

川森敬史 サッカースクールは男の子が多いので、アビスパのブランドを使って、ジュニア女子のチアチームを作ろうと企画しています。スクールという事業を通して、子どもたちにフィジカル、メンタルの両面で夢や感動を味わってもらいたいなという思いがあります。一緒にスポーツをして汗を流すとか、悔しがるとか、学校以外にある“アビスパ”というキーワードで、子どもたちの成長に何かしらの好影響を与えることができたら素晴らしいんじゃないかなと思っています。これは夏前にはスタートしたい企画です。

――社長になられて、アビスパサポーターの方々について感じていることは。

川森敬史 まずは、心から感謝したいということ。それから昨年のシーズン初めに私からお伝えしたことなんですが、初めて観に来る方々も一緒に応援できる雰囲気を作ってほしいと思っています。私はサッカーのサポーターというと、フーリガンじゃないですが、玄人集団のようなイメージがありました。ただ、前年の平均観客数が約5,000人のクラブで『レベスタ1万人プロジェクト』を実行するにあたって、初めてスタジアムに来られた方が「怖いな」とか「嫌だな」と思わないように、既存のサポーターの皆さんには温かく迎えてほしいとお願いしました。

――川森社長は就任当初「100億円クラブを目指したい」ということもおっしゃっていました。その目標に向けての具体的な施策を教えていただけますか。

川森敬史 今の売上構成比では、当然難しい目標です。クラブとして、何か事業を持たないと難しいことだと思っています。今のJリーグクラブですと、鹿島アントラーズさんは病院を開設していますし、水戸ホーリーホックさんは新電力事業に着手しています。たとえばスポンサーの皆さんとタイアップして事業をするとか、クラブが自分たちの足で利益を創出して、その中から強化費を出すというのは、今後のあるべき姿だと思っています。少し夢物語ではありますが、アパマンショップHDもFCバルセロナと契約するときに一定のお金を払っていますが、それはブランド料ということで契約を決断しました。ですからまずは、アビスパというブランド価値を高めていきたいと思っています。そのためには、健全な経営、コンプライアンス、選手の教育、チーム強化など、やるべきことが多方面にあって、一朝一夕にはできないですが、一つひとつやることでブランド価値を高めたいと考えています。

――今季のトップチームは、昇格初年度ということもあり厳しい戦いが続いていますが、今年の『レベスタ1.5万人プロジェクト』など、手応えや課題をどのように感じていますか。

川森敬史 ホーム開幕戦は観客動員が約1万7,000人で「いけるかな」と思ったのですが、その次の試合は約1万人。J1の平均は1万7,000人を超えるくらいですから、何が足りないのかなと考えています。もちろん昨季のように、さまざまなスタジアムイベントを企画しています。社内では企画一覧という資料を会議で出しているのですが、それを一つひとつ、すぐに実行できるもの、やりたいけど今は難しいことなど体系化して、すべてに企画の締切日、リリース日を決めて、達成できるようにしています。“玉虫色は残さない”というのが、アパマンショップHDの社風です。このクラブに来た当初は、それが怖いと感じる社員もいたと思いますし、日本文化としてはあいまいにすることもいいと思うのですが、ビジネスにおいては白か黒にしておかないと、最終的に負の方向に行ってしまいます。玉虫色にしておいても、売り上げや利益にはつながらないので、なるべく結論付けるようにしています。トップチームの戦いも今は厳しいですが、勝ちがないからといって崩れないように、やるべきプロセスをしっかりやっていれば、結果はついてくると信じています。それは経営も同じです。こういった状況のときこそ、フロントがトップチームを信じてあげなければ誰が信じてあげるのか、誰が守ってあげるのかと思っていますから。

アビスパ福岡株式会社
代表取締役社長
川森 敬史(かわもり たかし)

昭和40年11月30日生
平成 3年 8月  株式会社コムズ入社
平成15年10月  株式会社アパマンショップネットワーク
          (現アパマンショップホールディングス)入社
          FC事業本部 副本部長
平成16年10月  同 常務取締役(現任)
平成18年 7月  株式会社アパマンショップネットワーク 代表取締役社長(現任)
平成19年 6月  株式会社アパマンショップリーシング 常務取締役(現任)
平成25年12月  株式会社あるあるCity 代表取締役社長(現任)
平成27年 3月  アビスパ福岡株式会社 代表取締役社長(現任)

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