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アギーレ解任発表…その背景にある経緯と思惑とは

2015.02.03

八百長問題により日本代表監督を解任されたアギーレ氏 [写真]=Getty Images

 2月3日、日本サッカー協会(JFA)が記者会見を開き、大仁邦彌会長が法務委員長の三好豊弁護士同席の下で、ハビエル・アギーレ監督との契約解除を発表した。

 どうして疑惑のある人物を監督に招聘したのか。早い時期に問題が顕在化しながら、なぜここまで契約解除に至らなかったのか。この2点に疑問を抱く人は多いと思う。かねてから取り沙汰されてきた八百長問題の背景には、果たしてどのような経緯と思惑があったのかを見ていきたい。

 今回のポイントになっているのは、「疑わしきは罰せず」という法の大原則、そして日本代表の活動に悪影響を及ぼす可能性だ。

 まず第一に、なぜ疑惑のある人物を就任させたのか。これは原博実専務理事からすでに説明がなされている。昨年7月24日に原専務理事がアギーレ氏の日本代表監督就任内定を発表した際には問題が表面化しておらず、JFAとしても「知らなかった」という。その時点で判断を下すことは不可能だったというわけだ。本当にJFAサイドが把握できていなかったかどうかは知る由もないが、確かに当時は問題が浮上しておらず、実際に情報を入手できていなかったのも仕方がないように思われる。

 次に騒動が取り沙汰されるようになってからの経緯について振り返っていこう。

 昨年10月にスペイン現地紙が2011年のスペインリーグ最終節、レバンテ対サラゴサ戦に八百長疑惑があると報道。問題となった試合前、サラゴサのイグレシアス会長から指揮を執っていたアギーレ氏や所属選手の銀行口座へ入金があったとされ、その行方が八百長に使われたのではないかという疑惑が浮上した。

 ただ、当時は現地報道を目にしただけで、JFA側で表立って何らかの動きを施す状況ではなかった。ここからポイントになるのが、「疑わしきは罰せず」の原則だ。マスコミ各社が続報を流していくものの、正式な動きや情報はなし。アギーレ氏を失礼な形で追及するわけにもいかず、表向きには進捗を見守る状況が続いた。

 JFAとして正式な動きを見せたのは12月に入ってから。スペイン検察当局が今回の八百長問題を裁判所に告発した件を受けて、西澤和剛コミュニケーション部部長(当時)がブリーフィングを開き、独自の情報収集を進めることを明らかにした。ただし、スペインと日本で司法制度が異なり、検察からの告発は裁判所への問題提起でしかない。告発を受けて、それが受理された時点で初めて捜査に踏み出すことになる。12月の時点では告発されたのみで、JFAとしては今後どのような流れで捜査が進むのか、日本代表の活動に影響が及ぶことがあるのかの見通しを把握する必要があった。そこで三好法務委員長とスペイン在住の顧問弁護士、アギーレ氏の顧問弁護士の三者で連係を取りながら、独自の情報=JFAとしての考え方のベースになる情報の収集に動き出したというわけだ。西澤部長も説明していたように、この時点で「話せる話は多くない」ことに変わりはなかった。

 告発が受理されない状況が続いたが、ここから徐々に問題が重くなっていく。

 昨年12月18日に行われた2014年度第12回JFA理事会後の記者会見で、大仁会長と三好法務委員長が「八百長を示す証拠を発見できているわけではなく、アジアカップの指揮を執るという方針を変える状況には至っていない」と説明。アジアカップをアギーレ体制で臨む方針が大仁会長から理事会へ諮られて了承を得たことも明らかになった。その一方で三好法務委員長は「現地の弁護士から(結審するまでに)『相当、時間がかかるんじゃないか』という情報は入手している」と発言。捜査対象が40人以上に及ぶことから、告発が受理された場合の長期戦が必至であることを改めて示唆した。原専務理事も「非常にナーバスな問題なので、いろいろな情報を集めないと決断できない。当然、いろいろなことは考えています。情報収集しながら、状況に応じてあらゆる対応ができるようにはしています」と話すにとどめており、JFAとしてはクロと確定していない状況で動けないことは理解できた。アジアカップやその後に向けて協会と指揮官の信頼構築が重要だった時期でもある。原専務理事も「仮定の話は彼にはできない」という意見を述べていたし、状況が変化しなければ=告発状が受理されなければ、JFAとして何も動けないのは間違いなかった。「疑わしきは罰せず」の言葉どおり、アギーレ氏には最大限の配慮がなされた。

 一方、本人の口から何の説明もないこともメディアの追及を受けた。これを受けて12月27日にアギーレ氏が単独会見に臨む。ここでは「弁護士の指示で答えられない質問があることをご了承いただきたい」と前置きした上で、「プロサッカーに関わって39年。スペイン、メキシコ、アメリカ、日本……。その期間に汚点は全くありません。そこは信じてもらいたい。私はクリアな状況で大騒動だとは思っていない」と釈明。さらに「今後、証言しなければならない機会が出てくると思いますが、あらゆる形で証言できる。代表監督の業務に影響することは100パーセントない。それは断言できます」とコメントし、身の潔白を主張した。

 年が明けてアジアカップが開幕。その大会期間中にスペイン現地紙がバレンシア裁判所の告発受理を報じ、1月15日に大仁会長が会見を開く。だが、ここでは代表チームへの影響を考慮して、「正式には(告発受理は)確認できていない。アジアカップでの日本代表の活動が終わったら、JFAとしての考え方を説明する」と問題を封印した。そして今回、正式な告発受理の確認を受けて、アギーレ氏との契約解除を発表するに至った。

「推定無罪」という大原則があり、アギーレ氏自身も完全否定する中で、JFAとして「日本代表の活動に影響が出るリスクを避けたい」(大仁会長)という判断だった。

 アギーレ氏は年末に「日本代表の活動には全く影響がない」としていたが、大仁会長は「(告発が受理されたことで)起訴され、裁判が始まる可能性がある。その影響がワールドカップのアジア予選に出ないよう、リスクを排除する必要があると考えた」と説明。今後の捜査が日本代表の活動に影響する可能性は完全に排除できるものではないだけに、アギーレ氏も理解を示したという。

 八百長関与の事実は確認が取れるものではなく、指導者としての手腕やアジアカップ連覇を逃したことも関係ない。ただ一つ、JFAとアギーレ氏の間で認識が異なっていた点が契約解除のポイントになった。

 結論を先送りにして、今年6月からスタートするワールドカップ予選、そして2018年のワールドカップ本大会へ影響するようなことがあってはならないというリスクマネジメント。これはかねてから危惧されてきた部分ではあるが、JFAとしては正式に告発が受理されなければ動くことはできなかった。そして次に解任へ動くタイミングも図れない。そういう部分もあって、本件に関して大きな一歩を踏み出すことができたと言えるのかもしれない。JFAとしても「疑わしきは罰せず」という原則を踏まえて苦渋の決断になったことは想像に難くないが、立ち止まっているわけにはいられなかったわけだ。

 3月下旬にはキリンチャレンジカップとJALチャレンジカップの2試合が行われる。JFAとしては「寝耳に水」の騒動に巻き込まれた感があるかもしれないが、後任監督との早急な交渉を期待したい。各年代の日本代表がアジアで後塵を拝している昨今、フル代表にもJFAにも、大いなる捲土重来が求められる。

文=青山知雄

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