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才能の神話。メッシやタイガー・ウッズの能力は天賦のものか努力のたまものか
投稿日時:2012年02月08日 21:35
かつてイギリスを代表する卓球選手としてオリンピックに出場した経歴を持ち、現在はスポーツジャーナリストとして活躍するマシュー・サイドがアスリートにとって“才能”とは何かを考察した。
※この記事は『ワールドサッカーキング』2011.02.17(No.170)に掲載されたものです
エミレーツやオールド・トラッフォードに足を運び、プレミアリーグの試合を見る。そこで繰り広げられるプレーは、地方リーグの「ロングボールを蹴り、敵味方が入り乱れてそれを追い掛ける」それとは全くの別物だ。プレミアリーグの、それも最高レベルの試合は、華麗なボールタッチ、センス溢れるビジョン、優れた身体能力、走っているチームメートの足元に届けられるパスなど、「サッカーを神聖なものへと高める要素」に満ちており、その一つひとつが芸術と言ってもいい。
トップ選手がそんな珠玉のプレーを次々と生み出せるのはなぜだろうか。考え方は2つある。「持って生まれた才能のおかげ」か、あるいは「何千、何万時間もの練習の成果」かーー。
■プロ選手の能力は生まれ持った才能か、積み重ねた努力か
卓球選手としての私は、レディングの地域リーグからイギリスのトップにまで上り詰めた。当時の私は、自分の俊敏さや反射神経、適応力や勝負強さといったものは「神からの授かりもの」だと考えていた。時々、私自身が自分の才能に驚くこともあった。その力のおかげで、私は成功を切望するライバルたちを差し置いてトップに到達することができた。
私は想像する。トップレベルのサッカー選手も同じことを感じているだろうと。「才能」という言葉を使わずして、リオネル・メッシのスピードと柔軟なテクニックやデイヴィッド・ベッカムの完璧なプレースキックは説明できないではないか。
しかし、それでは「スター選手は、そうなるべくしてこの世に生まれてきた」ことになってしまう。宝くじに当たった者だけが、トッププレーヤーとしてサッカーに接する権利を持つ。私はこれに違和感を覚えた。現役時代から、才能の力を信じてそれに感謝すると同時に、「自分が成功を収めたのは才能のおかげではなく、ただ単に懸命に努力したからではないか」との思いも消えなかったからだ。そして今、こちらの考え方が私の中では強くなっている。
スポーツで大きな成功を収めるために必要なのは、生まれ持った能力ではなく、何千時間もの練習なのではないのだろうか。もしそうだとすると、才能についての概念はひっくり返る。トップに立つために必要な資質は、神に選ばれしわずかな勝者だけでなく、すべての人が備えているということになるからだ。
次に私はこう考えた。「それなら、才能とは何なのだろう」と。
サッカーの有名チームのアカデミーでコーチを務める者はこう言っている。「才能を持つ選手を見つけることはそれほど難しくない。しっかりと勉強し、それなりの経験を持つスカウトであれば、その選手がプロフェッショナルのレベルまで成長するポテンシャルを持っているかどうかを見抜くことができる」
しかし、私はその言葉に疑問を感じる。スカウトが見るのはほんの数十分、長くても数試合でのプレーだけだろう。才能を持った選手があまり練習熱心でなかった場合、スカウトはどうやってその情報を仕入れ、判断しているのか。その選手が3カ月前、半年前に比べてどれほど上達しているのかの確認もできないはずだ。
才能はしばしば“光り輝くもの”と形容されるが、スカウトの目にはそれが見えるのだろうか。いや、私はそうは思わない。才能は全員が持っている。あとは自らの努力と、才能を認められる機会が与えられるかどうかだ。
■トップ選手と違う者を分けるタイミングの問題
スター選手を生み出すために必要なのは、才能ではなく努力だ。これを証明するためのデータを提示しよう。1990年代のプレミアリーグの話になるが、9月から11月に生まれた選手が288人いるのに対し、6月から8月に生まれた選手は半分以下の136人しかいなかったのである。不思議な偏りではあるが、当然ながら理由はあるはずだ。
才能が神が与えしものだとしたら、神は9月から11月に生まれた者を偏愛していることになる。しかし、そんなはずはない。その答えはシンプルなものだ。イングランドでは学年を分ける区切りとなる日付が9月1日なのである。9月1日に生まれた選手は、8月生まれの選手と同じカテゴリーでプレーするが、成長と習熟の期間において11カ月のリードを持っていることになる。コーチが体格を重視してレギュラーを決めるとしたら、9月生まれと8月生まれのどちらが有利なのかは言うまでもない。これは才能ではなくタイミングの問題だ。それでも、結果として9月生まれの選手は8月生まれの選手よりもレギュラーになる可能性が高いことになるし、レギュラーとしてプレーすることで上のカテゴリーに昇格するチャンスも増える。
最近のアンダー世代の世界大会では、世代を分ける日が1月1日となっている。チェコのあるアンダー代表では、21人のうち19人が1月から6月までに生まれた選手で、10月から12月に生まれた選手は1人も招集されていなかった。これは驚くべきことだが、決して偶然ではないはずだ。
このことはサッカーに限らない。イギリスのミュージシャンに関する調査では、トップレベルの演奏家であっても、他の人たちより急速にうまくなったわけではないという結果が出ている。単純に、トップレベルの人がより多くの練習をこなしたということだった。ほとんどの場合、彼らは「早い時期から音楽に触れていた」ということが分かった。幼い頃から両親が演奏するのを見て、教わっていたというケースが多い。成長と成熟のための時間をより多く持つ者が成功を収める……。これが正しければ「神からの授かりもの」は否定されることになる。
■才能の一言で片づけるには大きすぎる努力
1997年に史上最年少でマスターズを制したプロゴルファーのタイガー・ウッズは“天才”の代表例と言える。しかし、彼は1歳の誕生日の5日前にゴルフクラブをプレゼントされ、2歳の頃にはコースを回っていた。さらに5歳にして、普通の人が生涯を掛けて行う練習量を既にこなしていたのである。これはキャリアのスタート地点が極めて早い段階にあったということだ。彼の偉大なキャリアは、あくまで常人離れした練習量によって築き上げられたのだ。
神から与えられし才能により、ボールを蹴り始めた時点で成功が約束されていたかのように思えるベッカムやメッシ、クリスティアーノ・ロナウドにしても同じだ。幼い頃から近所の公園に通い詰め、同じ位置から何時間もボールを蹴り続けていたというベッカムの“練習中毒”は有名である。プロデビューから2年後の1994年、アレックス・ファーガソン監督はベッカムについて「いつもベテランを手本にし、常に技術を磨こうとしている」と語ったが、同じことをレアル・マドリーやミラン、LAギャラクシーのチームメートが証言している。
追従など絶対にしないであろうジョゼ・モウリーニョも、C・ロナウドのサッカーに対する姿勢について最大級の称賛を送っている。「誰よりもハードに練習するクリスチアーノのおかげで、私は他の選手に献身的な姿勢をいちいち要求しなくて済む」
トップレベルのパフォーマンスを見ることはできても、それを生み出しているのが何なのか分からない我々は、才能という言葉に幻想を抱く。しかし、才能の一言で片付けるには、トップアスリートが積み重ねた努力と犠牲は大きすぎるのではないだろうか。メッシやC・ロナウドがこれまでに費やした練習時間、積み重ねた地道な努力……そういったものは決して無視してはならない。それはつまり「才能」という言葉を安易に使ってはならないということだ。
ベッカムはあらゆるメディアのインタビューに対して「成功の秘訣があるとしたら、それは練習だ。特別なことを成し遂げたいと願うなら、努力しなければならない」と繰り返し語っているが、これは謙遜ではなく、彼の偽らざる本心であり、彼が知る唯一のノウハウなのだ。
練習が持つ力をまだ信じられないなら、私の卓球に関するエピソードについて考えてもらいたい。私が選手として成功を収めた時、人々は「神に与えられた才能のおかげだ」と口々に言った。しかし、私が全英選手権を制した時、ふと周囲を見回してみたら、私と同じかそれに近いレベルにある選手の大半が、私と同じ地区の出身で、一緒に切磋琢磨してきた仲間だった。お分かりだろうか。レディングとその近郊に才能を持った子供が次々と生まれたわけではない。可能性を等しく分け与えられた我々は、アスリートを育てるのに最適な環境にいるという幸運を授かり、あとは努力を重ねてキャリアを積み上げたのだ。
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※この記事は『ワールドサッカーキング』2011.02.17(No.170)に掲載されたものです

Text by Matthew SYED
エミレーツやオールド・トラッフォードに足を運び、プレミアリーグの試合を見る。そこで繰り広げられるプレーは、地方リーグの「ロングボールを蹴り、敵味方が入り乱れてそれを追い掛ける」それとは全くの別物だ。プレミアリーグの、それも最高レベルの試合は、華麗なボールタッチ、センス溢れるビジョン、優れた身体能力、走っているチームメートの足元に届けられるパスなど、「サッカーを神聖なものへと高める要素」に満ちており、その一つひとつが芸術と言ってもいい。
トップ選手がそんな珠玉のプレーを次々と生み出せるのはなぜだろうか。考え方は2つある。「持って生まれた才能のおかげ」か、あるいは「何千、何万時間もの練習の成果」かーー。
■プロ選手の能力は生まれ持った才能か、積み重ねた努力か
卓球選手としての私は、レディングの地域リーグからイギリスのトップにまで上り詰めた。当時の私は、自分の俊敏さや反射神経、適応力や勝負強さといったものは「神からの授かりもの」だと考えていた。時々、私自身が自分の才能に驚くこともあった。その力のおかげで、私は成功を切望するライバルたちを差し置いてトップに到達することができた。
私は想像する。トップレベルのサッカー選手も同じことを感じているだろうと。「才能」という言葉を使わずして、リオネル・メッシのスピードと柔軟なテクニックやデイヴィッド・ベッカムの完璧なプレースキックは説明できないではないか。
しかし、それでは「スター選手は、そうなるべくしてこの世に生まれてきた」ことになってしまう。宝くじに当たった者だけが、トッププレーヤーとしてサッカーに接する権利を持つ。私はこれに違和感を覚えた。現役時代から、才能の力を信じてそれに感謝すると同時に、「自分が成功を収めたのは才能のおかげではなく、ただ単に懸命に努力したからではないか」との思いも消えなかったからだ。そして今、こちらの考え方が私の中では強くなっている。
スポーツで大きな成功を収めるために必要なのは、生まれ持った能力ではなく、何千時間もの練習なのではないのだろうか。もしそうだとすると、才能についての概念はひっくり返る。トップに立つために必要な資質は、神に選ばれしわずかな勝者だけでなく、すべての人が備えているということになるからだ。
次に私はこう考えた。「それなら、才能とは何なのだろう」と。
サッカーの有名チームのアカデミーでコーチを務める者はこう言っている。「才能を持つ選手を見つけることはそれほど難しくない。しっかりと勉強し、それなりの経験を持つスカウトであれば、その選手がプロフェッショナルのレベルまで成長するポテンシャルを持っているかどうかを見抜くことができる」
しかし、私はその言葉に疑問を感じる。スカウトが見るのはほんの数十分、長くても数試合でのプレーだけだろう。才能を持った選手があまり練習熱心でなかった場合、スカウトはどうやってその情報を仕入れ、判断しているのか。その選手が3カ月前、半年前に比べてどれほど上達しているのかの確認もできないはずだ。
才能はしばしば“光り輝くもの”と形容されるが、スカウトの目にはそれが見えるのだろうか。いや、私はそうは思わない。才能は全員が持っている。あとは自らの努力と、才能を認められる機会が与えられるかどうかだ。
■トップ選手と違う者を分けるタイミングの問題
スター選手を生み出すために必要なのは、才能ではなく努力だ。これを証明するためのデータを提示しよう。1990年代のプレミアリーグの話になるが、9月から11月に生まれた選手が288人いるのに対し、6月から8月に生まれた選手は半分以下の136人しかいなかったのである。不思議な偏りではあるが、当然ながら理由はあるはずだ。
才能が神が与えしものだとしたら、神は9月から11月に生まれた者を偏愛していることになる。しかし、そんなはずはない。その答えはシンプルなものだ。イングランドでは学年を分ける区切りとなる日付が9月1日なのである。9月1日に生まれた選手は、8月生まれの選手と同じカテゴリーでプレーするが、成長と習熟の期間において11カ月のリードを持っていることになる。コーチが体格を重視してレギュラーを決めるとしたら、9月生まれと8月生まれのどちらが有利なのかは言うまでもない。これは才能ではなくタイミングの問題だ。それでも、結果として9月生まれの選手は8月生まれの選手よりもレギュラーになる可能性が高いことになるし、レギュラーとしてプレーすることで上のカテゴリーに昇格するチャンスも増える。
最近のアンダー世代の世界大会では、世代を分ける日が1月1日となっている。チェコのあるアンダー代表では、21人のうち19人が1月から6月までに生まれた選手で、10月から12月に生まれた選手は1人も招集されていなかった。これは驚くべきことだが、決して偶然ではないはずだ。
このことはサッカーに限らない。イギリスのミュージシャンに関する調査では、トップレベルの演奏家であっても、他の人たちより急速にうまくなったわけではないという結果が出ている。単純に、トップレベルの人がより多くの練習をこなしたということだった。ほとんどの場合、彼らは「早い時期から音楽に触れていた」ということが分かった。幼い頃から両親が演奏するのを見て、教わっていたというケースが多い。成長と成熟のための時間をより多く持つ者が成功を収める……。これが正しければ「神からの授かりもの」は否定されることになる。
■才能の一言で片づけるには大きすぎる努力
1997年に史上最年少でマスターズを制したプロゴルファーのタイガー・ウッズは“天才”の代表例と言える。しかし、彼は1歳の誕生日の5日前にゴルフクラブをプレゼントされ、2歳の頃にはコースを回っていた。さらに5歳にして、普通の人が生涯を掛けて行う練習量を既にこなしていたのである。これはキャリアのスタート地点が極めて早い段階にあったということだ。彼の偉大なキャリアは、あくまで常人離れした練習量によって築き上げられたのだ。
神から与えられし才能により、ボールを蹴り始めた時点で成功が約束されていたかのように思えるベッカムやメッシ、クリスティアーノ・ロナウドにしても同じだ。幼い頃から近所の公園に通い詰め、同じ位置から何時間もボールを蹴り続けていたというベッカムの“練習中毒”は有名である。プロデビューから2年後の1994年、アレックス・ファーガソン監督はベッカムについて「いつもベテランを手本にし、常に技術を磨こうとしている」と語ったが、同じことをレアル・マドリーやミラン、LAギャラクシーのチームメートが証言している。
追従など絶対にしないであろうジョゼ・モウリーニョも、C・ロナウドのサッカーに対する姿勢について最大級の称賛を送っている。「誰よりもハードに練習するクリスチアーノのおかげで、私は他の選手に献身的な姿勢をいちいち要求しなくて済む」
トップレベルのパフォーマンスを見ることはできても、それを生み出しているのが何なのか分からない我々は、才能という言葉に幻想を抱く。しかし、才能の一言で片付けるには、トップアスリートが積み重ねた努力と犠牲は大きすぎるのではないだろうか。メッシやC・ロナウドがこれまでに費やした練習時間、積み重ねた地道な努力……そういったものは決して無視してはならない。それはつまり「才能」という言葉を安易に使ってはならないということだ。
ベッカムはあらゆるメディアのインタビューに対して「成功の秘訣があるとしたら、それは練習だ。特別なことを成し遂げたいと願うなら、努力しなければならない」と繰り返し語っているが、これは謙遜ではなく、彼の偽らざる本心であり、彼が知る唯一のノウハウなのだ。
練習が持つ力をまだ信じられないなら、私の卓球に関するエピソードについて考えてもらいたい。私が選手として成功を収めた時、人々は「神に与えられた才能のおかげだ」と口々に言った。しかし、私が全英選手権を制した時、ふと周囲を見回してみたら、私と同じかそれに近いレベルにある選手の大半が、私と同じ地区の出身で、一緒に切磋琢磨してきた仲間だった。お分かりだろうか。レディングとその近郊に才能を持った子供が次々と生まれたわけではない。可能性を等しく分け与えられた我々は、アスリートを育てるのに最適な環境にいるという幸運を授かり、あとは努力を重ねてキャリアを積み上げたのだ。
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【浅野祐介@asasukeno】1976年生まれ。『STREET JACK』、『Men's JOKER』でファッション誌の編集を5年。その後、『WORLD SOCCER KING』の副編集長を経て、『SOCCER KING(twitterアカウントはSoccerKingJP)』の編集長に就任。『SOCCER GAME KING』ではグラビアページを担当。
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